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支配より、共存が本質なのだ。 [旅「ヨーロッパ」]


「明日登りに行くのさ」小さなスプーンで器用にスープを口に運びながら、カナダ人は答えた。スイス南部に位置する街、ツェルマット。てっぺんが角のように鋭く伸びた山マッターホルンが有名な街だ。翌日、ロープウェイで麓まで登り、トレッキングを楽しむことにした。昨日見上げた山が、目の前で大きな両手を広げ歓迎していた。麦わら帽子を被り、ひんやりとした空気の中を歩く。しばらくして、川の水を飲む羊の群れに出会った。白い綿の塊が必死に水を飲む姿は、宮崎駿の世界によく似合った。30頭はいたが、羊飼いは見当たらなかった。彼らは彼らのペースで生きている。我が物顔の人間たちが、結局自然に包まれて生きていることを実感した。ここでは僕と羊は対等だった。羊が角で太ももをドンドンとこづく。少し痛かったがそのままにさせた。もう少し遊ばせてやるつもりだ。頭の中に、キューピーのコピー「考えてみれば人間も自然の一部なのだ。」が響いた。


目に見えない宝ほど、すぐ側にある。 [旅「ヨーロッパ」]


無人駅のようだった。4本の線路には列車が全く見えない。居眠り中の駅員の帽子と、古くなった麦わら帽子を交換してやろうかと思った。掲示板のファンキーなイタズラ書きだけがイマな駅。1348年に宝物庫として建てられたカルルシュテイン城はプラハから30kmと近い距離にあった。別の時代を感じるには、建築物が一番だ。包まれる匂いは、現実を忘れさせる。旅人にはその感覚こそが宝だ。二人は30分ほどの道を楽しみながら城を目指した。休業中の店を見る度不安になったが、新品のガイドブックは心強かった。次第に大きくなる青い屋根。しかし、夢と興奮は門前のCLOSEという文字を見たとたんに弾けとんだ。改装中!当時は心底落胆したが、今ではこの写真が一番の思い出となっている。目的に到達した際の失望が大きいほど、それまでの過程の評価は上がる。苦労話は笑い話となり、経験は光り輝く。僕らの思い出の中で、それは確かに宝になっていた。


笑う門に、二人きり。 [旅「ヨーロッパ」]


微笑みの安売りね。アキコは嫌そうにつぶやいた。フランスのルーブル美術館。世界の名作が集まった宝物庫で、美女と呼ぶには微妙な女性がこちらを見つめて微笑んでいた。唇の曲がり具合が絶妙で、頬の筋肉が引きつってしまうのではないかと心配したが、幸い彼女は小さな絵だった。モナリザ。貴族画や宗教画がメインの時代に、初めて一般人の肖像画を描いたレオナルド・ダビンチは偉大だ。誰もが振り返るいい女とは言えないが、少しふくよかな姿は現代の若者の趣向にマッチしている。スナップ写真でさえ笑うことが苦手なアキコは、作画中ずっとステキな微笑を保ち続けたリザ夫人が苛立たしかったのだろうか。もし、夫人とダビンチが深い仲だったら不思議ではないが、それならヌードを描いて欲しい。気がつくと、既にアキコはいなかった。やれやれ、女性は難しい。麦わら帽子を手に持って彼女の後を追う。そうだ、モデルをお願いしたらどうする?と聞いてやろう。


宝箱からなんと、食べ残しを見つけた! [旅「ヨーロッパ」]


エジンバラ城付近の大きなゴミ箱は、オシャレな白をしていた。中には日々の消費の余りが集まっているはずだが、乞食は麦わら帽子と犬と一緒にじっと座っていた。寒い冬は凍死する危険もあるので、ベガーは暖をとるために、よく犬を連れている。繰り返される「チェンジ、プリーズ」が耳障りだった。食べ物がないのを知っているのか、彼はすぐ側のゴミ箱を全く漁ろうとしなかった。エジンバラの乞食は施しが与えられることを待っているが、日本のホームレスは違う。ゴミ箱からお宝を発掘する。食べ物を得るための行動を起こす。両国の豊かさの差はあるが、そこにはもっと深い考え方の違いがある。食べ物を乞う者と、家を持たない者。乞食は生きることが目的だが、ホームレスは生き方が目的だ。一切のしがらみの無い自由な生活。それが彼らの哲学である。少し前、宝島の広告がホームレスを路上哲学者と呼んだ。人として生きるために、心に哲学を持つことは賛成だ。


狙っているのは、油断じゃない。良心だ。 [旅「ヨーロッパ」]


日曜日の午前中、カスコロ広場から延びる坂道にはぎっしりと露店が立ち並んでいた。麦わら帽子から骨董品まで手に入る蚤の市。集まった人の波は大きなうねりを作り出していた。カルメンと手をつなぎ、人ごみをかき分けて歩いた。一瞬、僕らは渦に飲み込まれた。抜け出すまで1分間もかからなかっただろう。渦から顔を出すと、彼女が呆然としていた。どうしたの?と尋ねると、彼女は青い顔で話し始めた。人ごみの中で右側に男がいたの。男は私の右肩にタバコの灰を落としたわ。ああ、ごめんなさい。男はそう言うと肩を優しくはたいたのよ。それでわたしの注意が右に向いたとき、左側で「ぱちん」と音が聞こえた。左の男とグルだったのよ。鞄を狙っていたんだわ。周りを見渡すと、誰もが人の良さそうな市民の顔をしている。この波の中にある悪意の渦は、さわやかな日曜日に暗雲を運んだ。心の隙は粒子鉄線で囲わなければいけない。いい人だけでは喰われるだけだ。


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