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体当たりの謝罪に鬼が笑った。 [旅「アジア」]

車内は今、空気より雰囲気の方が悪い。エドワルドとおっさんは、気づいているかわからなかった。意を決した僕はとりあえず電子辞書で「オナラ」を引いた。出てきた単語はブレイクウィンド。風を破るか。なるほど一理ある。こういうところからボキャブラリーは増えるのだ。ホセは英語を話さないが、日本語で言うよりはマシだった。ジェスチャーをつければ何とか言いたいことは伝わるだろう。「ホセ・・・」おそるおそる声をかける。ホセはあの顔のままこちらを向いた。僕はすかさず尻の右半分を浮かすと、右手でオナラが出ているようなジェスチャーを繰り返した。「アイ ブレイク ウィンド アイムソーソーリー」するとどうだろう。それまで鬼のようだったホセの顔がパァっと明るくなったのだ。「ノープロブレム ノープロブレム」僕の肩を抱き寄せてハグをする。それから右手で窓を開け始めた。「ノープロブレム」満面の笑みで、窓から入る砂埃を受けるホセ。


外国産の仁王あらわる。 [旅「アジア」]

「プスー、プスー、プスー、ブビッ」尻とシートの間で小刻みなビートが続く。車内にぶちまける食生活への不満。出し終わると体が軽くなった気がした。両手を上げて大きく伸びをする。ふと、視界の端が異様な気を捉えた。振り向くとそこには怒りの化身「仁王」になったホセの姿があった。毛深い腕を胸の前でガッチリと組み、何かに耐えるような厳しい顔をしている。吊り上がった眉毛は明らかに不快感を表していた。僕はすぐに左を向くとリョウスケに耳打ちをした。「ホセを見てくれ。あれ、怒っている?」「え?」リョウスケの目だけがすーっと右端へ動く。「おい、お前何をしたんだ?」「屁をふきかけた」僕はボソッと言った。「おまっ、それは怒るだろ!きちんと謝れよ」焦る日本人のひそひそ声。やっぱりそうだよな、怒るよ普通。普段の僕なら気にも止めないのだが、ここは密室しかも異国の地で異国の人と旅行中。日本人の品位が誤解されたら僕のせいなのだ。


ヘヘへ、やってやったぜ。 [旅「アジア」]

3日目。そろそろネパールとの国境に到着する時のことだった。外は例によって砂埃がひどい。ランクルは窓を閉め切って走行していた。この話をする前に断っておきたいのだが、僕はそんなに下品な話を好んでする人間ではない。下ネタもたまには言うが、それでも一般的な成人男性としてのマナーと羞恥心は持ち合わせているつもりだ。この時は金もなく満足な昼食がとれずひどい空腹状態だった。主食はチキン味のビスケット。当然、栄養が偏り腹の調子は最悪。さらにでこぼこの悪路が、繰り返し腹を刺激してくる。少しずつ溜まるガス。車内の揺れとともに腸内でガスも揺れる。そして、我慢の限界がきた・・・。「プスゥー」一発目に大きいやつ。もちろん音は出さない。きたない話だが、穴から少しずつ空気を抜くようオナラをすれば音は出ない。20数年生きてきて身に付けた知恵。学校では教えてくれないこと。一発目と行ったのは、これが一回では終わらないからだ。


小さな未来は、この手でつくれた。 [旅「アジア」]

自分たちだけでは不安なので、さっき救出された車に手助けをお願いする。快く承諾してくれるドライバー。親切の連鎖が美しい。連結ロープをフロントバンパーに結ぶと、まるで2台のランクルががっちりと握手をしているように見えた。ファイト一発な光景。おっさんはギアを1速に入れ、僕らはそれぞれ所定の位置についた。準備は整った。おっさんがアクセルを踏み込むのを合図に、それぞれが仕事を始めた。飛び散る泥。「押せ!押せ!」夢中になって声を張り上げるが、足場がゆるくてどうにも力が入らない。ホセ、エドワルドも真っ赤な顔をしている。前方から「ウィーン、ウィーン」と、引き上げてくれているランクルの力強い音が聞こえた。時間にしたらどれくらいだったのだろう。気づいたときには車はぬかるみから抜け出して、僕らは泥だらけで立ち尽くしていた・・・。しばらくは動けなかった。おっさんに文句を言うのも忘れて、ただ意識を呼び戻そうとした。


スポットライトは、いつ回ってくるかわからない。 [旅「アジア」]

運転席に座るおっさんの開いた口、見開いた目。必死に左右にンドルを振っているが、滑り出したランクルは止まらない。左後輪が傾きながら泥沼へ沈み込む。ああ!なんてこったい・・・。僕らは目を疑った。だってそうだろう。たった今、必死の泥沼からの脱出劇にエールと拍手を送ったところだったのに、次は僕らが主人公になる番だなんて。おっさん、狙ってやっているんじゃないだろうな・・・。急いで車へ駆け寄ると、泥がモロに服にはねた。ぬかるみを懸命に泳ぐ僕らのマシン。とにかくなんとかしなければ。4人は汚れるのも気にせずにタイヤの周りを素手で掘り始めた。だがいくら掘っても泥が崩れていくばかり。何かを下にかませないと駄目だ。するとエドワルドがどこからか板を拾ってきた。よくやった!タイヤの下に差し込めば板を上ることができる。勢い良く地面に突き刺すと、板は拍子抜けするぐらいあっけなく地中に吸い込まれた。ぬかるみはかなり深い。


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